富山県内の中小企業がAI導入を進めるとき、費用の大半を公的にまかなえる制度がある。公益財団法人 富山県新世紀産業機構(TONIO)の専門家派遣事業だ。企業の自己負担は派遣1回につき10,000円と専門家の旅費の3分の1のみ。令和9年3月31日までは、生産性向上や価格転嫁等の経営力強化に取り組む場合、1回目の自己負担なしで使える。コンプオフィスの代表も2026年8月、この事業の専門家として登録された。
専門家派遣事業とは何か?
中小企業が抱える経営・技術・情報化の課題に対して、民間の専門家を派遣し、診断と助言を行う制度である。
実施主体は富山県新世紀産業機構。中小企業支援センターが窓口になっている。創業者や経営の向上を目指す中小企業者が抱える課題に民間の専門家を活用し、適切な診断・助言によって解決を図ることを目的にしている。
登録されている専門家は63名(令和8年8月10日現在)。経営戦略、営業戦略・マーケティング、事業計画策定、人事・労務、生産管理、ITシステム、IoT・AI関係など、分野は幅広い。専門家の一覧は機構のサイトで公開されているので、企業側が中身を見てから選べる。
費用はいくらかかるのか?
企業が払うのは派遣1回につき10,000円と、専門家の旅費の3分の1だけである。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 企業の自己負担 | 1回10,000円+専門家の旅費の3分の1 |
| 令和8年度の特例 | 生産性向上・価格転嫁等の経営力強化に取り組む場合、1回目の自己負担なし(令和9年3月31日まで) |
| 専門家への謝金 | 1回30,000円(消費税込み・実施要領) |
| 専門家への旅費 | 機構の旅費規程で算定(上限150,000円・実施要領) |
初回を試してから続けるかどうかを決められるので、AIのように「やってみないと効果が読みにくい」テーマとは相性がいい。
派遣は1回につき3時間以上、最大8回まで。原則として1事業年度内に1事業者あたり1案件となる。
どんな会社が対象になるのか?
創業または経営革新等を行い、経営の向上を目指す意欲のある中小企業者等が対象になる。
一方で、社会福祉法人・医療法人・特定非営利活動法人・一般社団法人・一般財団法人等は対象外とされている。福祉施設や業界団体の担当者が「うちも使えるのでは」と動き出す前に、まず法人格を確認しておきたい。
AI導入の相談にも使えるのか?
使える。専門分野の区分に「IoT・AI関係」「ITシステム」「WEBサイト・SNS関係」がある。
制度の名前だけを見ると、財務や生産管理といった従来型の経営課題を想像しがちだ。しかし公開されている専門家一覧を見ると、生成AIの活用、業務自動化、DX推進を専門分野に挙げている登録専門家が複数いる。
AI導入でつまずく会社の多くは、ツールを選べないのではなく、どの業務をAIに渡すかを決められないところで止まっている。ここは社内だけで議論すると堂々巡りになりやすい。外から棚卸しに入ってもらう用途に、この制度は向いている。

申し込みはどう進むのか?
企業が派遣要請書を出し、機構が派遣を決定し、機構から専門家へ依頼が届く流れになる。
- 支援を希望する企業が、派遣を希望する専門家と支援内容を書いた派遣要請書を機構へ提出する
- 機構が内容を検討し、派遣する専門家と派遣回数を決定する
- 企業が負担金を振り込む(入金の確認後に派遣開始)
- 専門家が派遣され、1回3時間以上の診断・助言を行う
- 終了後、専門家と企業がそれぞれ報告書を提出する
押さえておきたいのは1と3だ。企業側から専門家を指名できるので、すでに相談相手の心当たりがあるなら、その名前を書いて出せばいい。心当たりがなければ、支援要請の内容に合う専門家を機構が選んで紹介してくれる。そして負担金の入金が確認されるまで派遣は始まらないので、動き出したい時期から逆算して申し込む必要がある。
制度の詳細と様式のダウンロードは機構の公式ページにまとまっている。
https://www.tonio.or.jp/user/shienCenter/senmonka
専門家に登録されると、何が変わるのか?
制度を使う会社にとっては、指名できる相談相手の選択肢がひとつ増えた、ということに尽きる。
コンプオフィスの代表・高畑義光も、2026年8月にこの事業の専門家として登録された(登録期間は2027年3月31日まで)。登録した専門分野は、経営戦略、営業戦略・マーケティング、WEBサイト・SNS関係、ITシステム、IoT・AI関係。
ここは誤解が生まれやすいので、はっきり書いておきたい。
- 専門家登録は、機構に所属することを意味しない。職員でもなければ、機構の窓口でもない
- 機構が特定の事業者のサービスを推薦・保証するものでもない
- 制度を使えるかどうかの判断も、派遣する専門家の決定も、行うのは機構である
- 申し込みの窓口は機構の中小企業支援センターであって、コンプオフィスではない
登録されたからといって、依頼が自動的に回ってくるわけでもない。企業が派遣要請書に名前を書くか、機構が要請内容に合う専門家として選ぶか、入口はその2つだけだ。

派遣の3時間を、何に使うか?
AIの説明を聞く時間にすると、たいてい何も残らない。自社の業務を持ち込んで、その場で一緒に動かす時間にしたほうがいい。
公的支援は「相談相手を連れてくる」ところまでを助けてくれるが、何を相談するかは社内で決めるしかない。8回という上限は、意外と早く使い切る。
コンプオフィスでは、問い合わせ対応、出演管理、売上・請求、レシートのOCR、月次経理、名刺管理、議事録、ブログとSNSの下書きまでをAIとスクリプトで回している。そこまで積み上げてわかったのは、効果が出る順番がだいたい決まっているということだ。
- 毎週必ず発生していて、手順が言葉で説明できる仕事から渡す
- 判断が要る仕事は、いきなり任せず下書きだけ作らせて人が直す形にする
- 一度きりの分析より、社内の情報をAIに渡し続ける仕組みのほうが後から効いてくる
3つ目が本命だ。AIは半年で別物になるが、貯めたコンテキストは腐らない。むしろモデルが進化するほど、同じ材料から引き出せるものが増えていく。
マジックでも同じことが起きる。上手い人の映像を何度見てもできるようにはならず、カードを持って、落として、拾ってを何百回とくり返して、ようやく手が覚える。AI導入も講義を聞いた翌日に会社が変わることはない。触った回数と、渡した情報の量が効いてくる。
だからこそ、相談したい業務を1つか2つに絞り、実際の書類やデータを用意しておくと初回から進む。
AIをどこまで使えている状態が目標なのかを整理したい場合は、段階ごとに分けたロードマップも参考になる。
AI活用の16段階ロードマップを先に見てから相談内容を決めると、依頼の解像度が上がる。実際に会社の業務をAIで回している中身は30以上の自作AIコマンドで会社を回す話にまとめている。
業務提携先とのAIの取り組みは、マジシャンとしての活動と合わせてこちらで紹介している。
https://comp-office.com/ai/cable-gijutsu-show-2026-tst-techno-ai/
普段どうやってAIエージェントを実務に組み込んでいるかは、こちらの記事が近い。
https://comp-office.com/ai/claude-code-codex-ai-agent-dual-use/
相談先を決める前に、持ち込む課題を決める
制度があること自体は、そんなに知られていない。だが本当の分かれ目は、制度を知っているかどうかではなく、持ち込む課題が用意できているかどうかだ。
AI導入の相談先を探している段階なら、まず社内で「毎週発生していて、手順が説明できる仕事」を3つ書き出してみてほしい。それがあるだけで、専門家に会う3時間の中身がまるで変わる。
書き出したものを見ながら、どこから手をつけるかを一緒に整理したい場合は、コンプオフィスへも気軽に相談してほしい。制度そのものの利用条件やお申し込みは、富山県新世紀産業機構の中小企業支援センターが窓口になる。
